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「いゝえ、なんの。おれんとこへなんか。――あんたは忙しい身だもの」
「それあ、さうだらうなあ。なんしろ広い海のこつた!――ねえ、君」
「さうですね。さつきからどうもさうらしいと思つていたんですが、失礼しました」
低地になつた野菜畑の間を抜けて、まるでどこかの城跡の石垣めいた、頑丈な円石を積み重ねた堤防の上に次第上りに出ると、いきなり目の前に、日を受けて白く輝き、小山のやうに持上り、凹み、或る所では優しげになだらかな線を引いた、だゝつ広い河原の拡がりが現れて来る。
「徳さんが新しいのを掛けてくれるまで待つていた方がいいかもしれませんね、これは」
「ね、どこも悪くない。だが、その丈夫な身体の中に虫が巣をつくつとる。いゝかね、心臓病とか腎臓病とかいふやうなものではない。虫を駆除する、つまり身体から出してしまへばあんたの身体はもと通りぴんぴんして来る。悪い虫だが、とつてしまへばよいのだから、他の病気よりは性質はいゝと云ふことになる。――判つたかね」
練吉は意外なことを耳にしたといふやうにちよつと房一を眺めたが、熱心に聞いていた。
「それあ、あんた」
「まあ、――上の町の大石さんとこ位は行つとくのもよからうが」
神経質な目ばたきをしながら、練吉は口早に引きとつて云つた。
徳次は、両手に海苔まきとゴマをまぶした握飯と二つとも慾ばつて持ち、紙の袖をいやといふほどたくし上げ、冠をどこかへ脱ぎすてたので、いがくり頭ときよろりとした眼とを何かむき出した風に目立たせながら、足を踏んばつて云つた。
「いや、挨拶まはりですよ。どうぞよろしく」
さう云つたのは庄谷だつた。房一がその方をふり向いた時、庄谷の白味がちな小さな眼が意味ありげに更に細くなつたところだつた。そのまゝにやりとして、